「江戸から大歌舞伎が来たそうだ。どうだなお前|観《み》に行っては」
「はい、有難う存じます。それより秋になりましたゆえお好きの山遊びにおいで遊ばせ」
「うん、山遊びか、行ってもよいな」
「明日にもお出掛け遊ばすよう」
「北山殿もお好きであった。ひとつ誘って見ようかな」
「それがよろしゅうございます」
そこで使いを立ててみると喜んで同行《ゆく》という返辞であった。
その翌日は秋日和《あきびより》、天高く柿赤く、枯草に虫飛ぶ上天気であった。
まだ日の出ないそのうちから三人の弟子を引き連れて天野北山はやって来た。
「鏡氏、お早うござる」
「北山先生、お早いことで」
双方機嫌よく挨拶する。
若党|使僕《こもの》五人を連れ他に犬を一頭曵き、瓢《ひさご》には酒、割籠《わりご》には食物、そして水筒には清水を入れ、弓之進は出《い》で立った。
奥様は玄関へ手をつかえ、
「ごゆっくり」と云って頭《つむり》を下げる。
「奥、それでは行ってくるぞ」
で、一行は門を出た。
間もなく野良路へ差しかかる。ザクザクと立った霜柱、それを踏んで進んで行く。
二
的場、野笹、長藤村
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