の魔神」というこの物語の主人公なのである。
いでや作者《わたし》は次回においては、この猪太郎の身の上について描写の筆を進めると共に、全然別種の方面に当たって別様の事件を湧き起こさせ、波瀾重畳幾変転《はらんちょうじょういくへんてん》、わが親愛なる読者をして手に汗を握らしめようと思う。
これまで書き綴《つづ》った物語はほんの全体の序曲に過ぎぬ。次回から本題へ入るのである。
高遠城下の巻
一
「先生、いかがでございましょう? すこしはよろしいのでございましょうか?」
「さよう、よいかも知れませんな」
「よろしくないのでございましょうか?」
「さよう、よくないかも知れませんな」
「では、どちらなのでございましょう?」
「さよう」
と云ったまま返辞をしない。
奥方お石殿は不安そうにじっ[#「じっ」に傍点]とその様子を見守っている。それからまたも聞くのであった。
「先生、いかがでございましょう? すこしはよろしいのでございましょうか?」
「さよう、よろしいかもしれませんな」
「よろしくないのでございましょうか」
「奥!」
と良人《おっと》弓之進は見兼ねて横か
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