。草を分け枝を切っても今度こそは逃がしはせぬと、部落の男女子供まで一人残らず馳せ集まり、人数おおよそ五百人余り山を囲んでさっきから探しておるのでござります」
「なるほど」
 と法師は眼をとじてしばらくじっと考えていたが、「断じて私《わし》は逃げはせぬ。――しかし山は去ることにしよう」
「それが安全でござります。何より安全でござります」
「いや、私には危険はない。このままこの山におるとしても、私には神の恩寵《おんちょう》がある。窩人達にも捕われもしまい。一度《ひとたび》私が手を上げたなら忽然《こつぜん》と山火事が起こるであろう。もしまた足を上げたなら雪崩《なだれ》が落ちても来よう。……以前《まえかた》私は山火事を起こし彼らの集会《あつまり》を妨《さまた》げたことがある。もっとも真実《まこと》の山火事ではない。ただそう思わせたばかりであっていわば幻覚《まぼろし》に過ぎなかったが彼らは恐れて逃げてしまった。……私は彼らを恐れてはいない。私の恐れるのは自分自身だ。……私はこの山へ一年前に来た。最初は数十人の信者があった。しかし今はただ一人――ただ一人お前が残ったばかりだ。なんとはかない私の力で
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