あろう! 人を説くにはまだ早い、人を教えるのは僭越《せんえつ》である。それで山を去ろうというのだ。去ってそうして尚一層自分自身を磨《みが》こうというのだ」
 この時ドッと鬨《とき》の声が眼の下の林から湧き起こった。得物を引っさげた窩人の群が雪を蹴立てて駈け上って来る。
 しまった! と岩太郎は心で叫び、
「もう遅いかも知れませぬが、いそいでお隠れなさいまし! 一刻も早く、白法師様!」
 しかし岩太郎がこう云った時にはもうそこにはいなかった。と見ると遥かの山の峰に何やら動くものがある。そうしてそこから風に伝わってこういう声が聞こえて来た。
「おさらばじゃ岩太郎! またお前達とも逢うだろう。それまではおさらばじゃ」
「ああ、あれが白法師様だ」
 岩太郎は呟《つぶや》いて岩の上から幾度も頭を下げたものである。

         二二

 宗介天狗のご神体が無慙《むざん》に傷つけられ穢《けが》されたことは、笹の平の窩人達にとっては正に青天の霹靂《へきれき》であり形容も出来ない恐怖であった。白法師さえ取り逃がしたので、彼らはすっかり絶望した。絶望に次いで混乱が来た。平和であった窩人部落は一朝に
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