う見えても多四郎様は、今日から大したお金持よ、贅沢《ぜいたく》のし放題。綺麗な女に旨《うま》い酒に不自由はねえというものさ」

         一九

「……おお苦しいか苦しいか。さぞ痛かろう痛かろう。肩からドクドク血が出ているなア。その苦しみもほんの一時、後は往生観念仏、楽になろうというものだ」
「む、むううう」
 と権九郎は口を利くことさえ出来なくなった。それでもいわゆる最後の一念、全身の力を足にこめ俄然《がぜん》スックと立ち上がった。間髪を入れず斬り下ろした匕首。油断していた多四郎の腕へ切っ先鋭くはいったが冬の事で着物が厚く裏掻《うらか》くことはなかったものの、多四郎の周章《あわ》てたことは云うまでもない。「あっ」と叫んで後ろ様にパタパタと五、六歩逃げたほどである。
 手の匕首をまず落とし、それから枯木が倒れるように権九郎は雪の上へ仰向《あおむ》けに仆《たお》れた。そしてそのまま長くなりもう動こうとはしなかった。彼は全く息絶えたのである。雪はさんさんと降っている。憐れな権九郎の死骸《しがい》の上へも雪は用捨なく積もるのである。黒く見えていたその死骸は見ているうちに白くなった。や
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