ぁんと一杯《いっぺえ》飲《や》ろうと思ってな、酒を二升ばかりさげて来たよ」
白鳥をドサリと囲炉裡|傍《ばた》へ置く。
「なに酒か済まねえなア」
それから焚火でかん[#「かん」に傍点]をして二人はグイグイやり出した。
しばらく二人とも黙っている。
それが二人には胸苦しいのである。
一六
「岩」
と不意に杉右衛門は云った。
「お前ちっとも酔わねえじゃねえか」
「そういう爺つぁんだって酔ってねえようだな」
「どうしたのか俺はちっとも酔えねえ」
「俺もそうだ、ちっとも酔えねえ」
そこで二人は沈黙した。その沈黙は長かった。そうして息苦しい沈黙である。
戸の隙間から吹き込むと見えて雪が二人の肩へ掛かった。嵐の名残りが迷い込んだものかパッと焚火が横になぐれ[#「なぐれ」に傍点]たが、またすぐスッと立ち直った。
まだ二人は黙っている。
と、突然岩太郎が云った。
「どうも俺には解らねえ! どう考えても解らねえ!」
「何が!」
と杉右衛門が突っ込んで行く。
「何がってお前女の心がよ!」
「女と云わずに山吹と云え!」
「おお云うとも! おお云うとも! 俺にはどうして
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