たし》がくどく[#「くどく」に傍点]あのような事をお尋ねしたからでございますか? ……もう妾はお父様のことは何んにもお尋ね致しませぬ。どうぞお許しくださいまし」
 隣りの部屋へ歩きながら、
「妾はこれからはただ一人で考えることに致しましょう。お休みなさりませお姉様。夜はまだ早いのではございますが、妾は悲しくなりましたゆえ、いつものように夜の床の上でご本を読むことに致します。お休みなさりませお姉様」
 彼女の立ち去ったその後は遠くから聞こえる祈祷の声ばかりが寂《さび》しい部屋をいよいよ寂しくいよいよ味気なく領《りょう》している。
 ふと[#「ふと」に傍点]柵は顔を上げたがその眼には涙が溢れている。
「可哀そうな久田姫や、お前は何一つこの妾《わたし》に詫びることはないのだよ。妾こそお前に詫びねばならぬ。可哀そうなお前の身の上は妾の淫《みだ》らな穢《けが》れた血で醜《みにく》く彩《いろど》られているのだからねえ」
 彼女はよろよろと立ち上がり画像の前まで行ったかと思うと二幅の画像を交互《かわるがわる》に眺め、
「ほんとに姫が云ったように何んとマアこの二人の人は悲しそうな顔をしているのであろう
前へ 次へ
全368ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング