。
尼は恭《うやうや》しくお祈りを上げる――「悩み嘆く魂のために安らけき時を与え給え。犯せる罪を浄《きよ》めるために浄罪の時を与え給え。――神の怒りは火となりて我らの五体を焼き給うとも我らは永劫《えいごう》に悔いざらん。アーメン」
「アーメン」
「アーメン」
と二人の姉妹もそれに続いてさも恭しくこう云った。
「お祈りはもう済みました。お休みなさりませ、お休みなさりませ」
尼は云い捨てて立ち去った。室内は再び静かになった。と、遠くから祈祷《きとう》の声が讃歌《うた》のように響いて来る。尼達が合唱しているのであろう。
久田姫は立ち上がり何気なく窓へ近寄って行ったが、
「……おお湖は真っ暗だ。どうやら嵐が出たらしい。濤《なみ》の音が高く聞こえる……ああ湖の上に灯が見える。あそこに船がいるのかも知れない。だんだんこっちへ動いて来る。路案内の灯でもあろう。……」
姉の柵《しがらみ》は龕の前に尚《なお》つつましくひざまずいていた。熱心にお祈りをしているのであった。すすりなきの声がふと洩れる。
「お姉様」
と云いながら久田姫は窓を離れ姉の後ろへ寄り添った。
「何をお泣きなされます。妾《わ
前へ
次へ
全368ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング