恵のねえ奴は気の毒なものさね。……よしか、話すから聞きねえよ。俺の目差す御敵《おんてき》は第一が黄金第二が女よ」
「何んだ詰《つま》らねえそんなことか。何がその他にいい物がある? とかく浮世は色と金、ちゃアんと昔から云っているじゃねえか」
「だからどうだって云うのだえ?」
「珍らしくもねえとこう云うのさ」
「お前は玉を見ねえからだ」
「たとえどんなに上玉でもものの[#「ものの」に傍点]千両とは売れもしめえ」
「何んだ金が欲しいのか。金なら別口が控えていらあ……女の話はお預けか?」
「いやさ順序で聞きやしょう」権九郎はニタリと苦笑する。
「ほほう滅法《めっぽう》穏《おとな》しいの。ところで女は部落者さ」
「そいつア聞くにも当たるめえ」
「しかも杉右衛門の一人娘よ」
「部落の頭の杉右衛門のな?」
「うん」と多四郎は大きく頷く、「年は十九、縹緻《きりょう》よしだ」
「へ、そいつもご同様改めて聞くにも当たりますめえ」
「そこは順序だ。黙って聞きねえよ。よしか。素晴らしい別嬪《べっぴん》よ。で、私《わし》に惚れておりやす」
「厭《いや》な野郎だな。変な声を出して。……ふうん、それからどうしたんだ
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