え」
「江戸へ駈け落ちと評定一決。……」
「へえ、そいつア強気だのう」
「ところがどうも後が悪い」
「……と、来るだろうと思っていた。本文通り邪魔《じゃま》がはいったな」
「偉《えら》い! お手の筋! ついでに人相を。……」
「見たくもねえ人相だの。まず女難は云うまでもなしか」
「うわア、辻占《つじうら》が悪いのう。ところでどこまで話したっけ?」
「ええ物覚えの悪い野郎だ。邪魔がはいったところまでよ」
「うん。違えねえ、その邪魔だが、相手もあろうに坊主とけつかる」
「ウワッハハハ、ウワッハハハ」
「おい笑うのは酷《ひど》かろうぜ、何んとか挨拶《あいさつ》がありそうなものだ」
「でもお前坊主丸儲けよ。お前に勝ち目はねえじゃねえか」
「だから俺《おい》ら悄気《しょげ》てるのさ」
「え、悄気てるって? その面《つら》で?」
「引き戻す工夫《くふう》はあるめえかな?」
「智恵を貸さねえものでもねえが、女の様子はどうなんだえ」
「俺らに逃げを張っているのだ」
「ふうん、そいつア困ったのう」
「何んだ! それで智恵面があるか! 人に貸そうも凄じい。……ちゃアんと目算は出来てるのよ。そうよここだ、胸
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