すねえ、あなたはどういう方なんです?」
すると白衣の妙な人は穏かな微笑を頬に湛《たた》えながら牛丸の方へ進み寄り軽く頭を撫《さす》った。
「私《わし》かね、私は坊さんだよ。……総《すべ》ての人よ愛し合えよ! こういう宗旨を拡めようとこの部落へ来た坊さんだよ」
「坊さん? ううん、坊さんじゃないよ。だって頭に髪があるじゃないか」
「だから私は有髪《うはつ》の僧じゃ。したがって私の説教は普通の坊さんとは少し違う」
「あなたの名は何んて云うの?」
「私には本来名はないのじゃ。……私は白衣を纏《まと》っている。だから部落の人達は、白法師と呼んでいる」
「えっ」
と牛丸は驚いたが、驚いたのは牛丸ばかりではなく山吹も岩太郎も仰天して、妙な人をつくづくと見た。
「何も驚くことはない」
白法師は悠然《ゆうぜん》と説き出した。
「部落の人達が憎み嫌う白法師とは私のことじゃ。しかし私は悪魔ではない。私はかえって天使の筈《はず》じゃ……この部落はよい部落じゃ。ここの人達はよい人達じゃが、一つだけ悪いことがある。窩人《かじん》以外の下界の人達を忌《い》み嫌うということはどう考えてもよいことではない。私は
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