てくださるに相違ない。――さっき俺達は喧嘩したねえ。そしてもう俺は逢わぬと云ってお前の所から飛び出して行った。……しかし俺はまた来たよ。それは他の理由《わけ》でもない。このお方をお前に紹介《ひきあわ》せたいためだ。山吹! このお方はお偉い方だ!」
頸垂《うなだ》れていた顔を上げ山吹はまたその人を見た。とその人はまた微笑し、さも謙遜《けんそん》に堪《た》えないように、
「いやいや私《わし》は偉い人でも勝《すぐ》れた人間でもありませんよ。俺《わし》は平凡な人間です。しかし俺は真実《ほんと》を語りそして真実《ほんと》を行っています。あるいはこの点が普通の人物《ひと》と違っている点かもしれませんな。……それはとにかく今日|先刻《いましがた》俺はこの方と逢いました。そうです向こうの林の中で岩太郎さんと逢ったのです。そうして俺はこの方と暫時《しばらく》無駄話をしましたっけ」
「そうです」
と岩太郎は感謝の眼《まなこ》を上げ、
「……恋を失った口惜しさに俺《わたし》は頭の毛を掻《か》き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りながら林の中を走っていました。その時ヒョッコリあなた様に
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