−8−78]」
山吹は驚いて叫んだが、「妾《わたし》も、妾も、妾も一緒に!」
――周章《あわ》てて潜り戸から飛び出した。
後には、部屋の中には誰もいない。黄色い秋陽がしらしら[#「しらしら」に傍点]と敷物の上を照らしている。小鳥が一羽戸惑いしてツト部屋の中へ飛び込んで来たが、すぐ驚いたように飛び出して行った。しん[#「しん」に傍点]と四辺《あたり》は静かである。
と、戸外《いえのそと》で話し声がする。
「牛丸さん、今日は」
「ああ、岩さん、今日は」
「姉さん家においでかね?」
「ええいますよ家の中に」
「どなたかお客さんでもありますか?」
「…………」
「とにかくはいって見ましょうかね」
すぐと土間へはいって来たのは、牛丸と岩太郎と白衣《びゃくえ》を着たすなわち「妙な人」とであった。
岩太郎は多四郎と同年輩であった。人柄はまるで反対であった。真面目で熱烈で堅実でいかにも部落の若者らしい。縞《しま》の筒袖《つつそで》に山袴《やまばかま》を穿《は》き獣皮の帯を締めている。
白衣の人物はそれとは異なり真に神のように神々《こうごう》しい。抜けるほど白い皮膚の色。髪を肩まで切り下げ
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