もない。窩人達の住居《すまい》には人気なく、宗介天狗の社殿《やしろ》には裸体の木像が立っていた。
まじまじ[#「まじまじ」に傍点]と照る陽の光、こうこう[#「こうこう」に傍点]と鳴く狐の声、小鳥のさえずり、風の音、深山の呼吸《いき》が身に迫った。
しかし一人の窩人達も、そこには住んでいなかった。
葉之助は拝殿へ腰をかけ、四辺の風物へ眼をやった。
と、その時聞き覚えのある、男の声が聞こえて来た。
「猪太郎、猪太郎、よく参った」
拝殿の奥の木像の蔭から、一人の人物が現われた。白衣長髪の白法師であった。
「おおあなたは白法師様」葉之助は立って一揖《いちゆう》した。
「大概《たいがい》来るだろうと思っていたよ」
葉之助と並んで白法師は、拝殿の縁へ腰をかけた。
「どうだ葉之助、昔の素姓が、ようやくお前にも解ったろう」
「はい、ようやくわかりました。……母は窩人で山吹と云い、父は里の商人で、多四郎と云うことでございます」
「だが多四郎の後身が、大鳥井紋兵衛だとは知るまいな」
「えっ」と葉之助は眼を瞠《みは》った。「あの紋兵衛が私の父で?」
「そうだ」と白法師は頷いた。「詳しく事情を話し
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