と今度は町人が叫んだ。
「誰だ?」
 と武士が叱咤《しった》した。
 町人は葉之助を突き飛ばそうとした。が、葉之助は頸首《えりくび》を捉え、ギューッと地面へ押し付けた。
 突然武士が刀を抜いた。ヒョイと葉之助は後へ退いた。刀は町人の首を切った。ヒーッと町人が悲鳴を上げた。
「しまった!」と武士は刀を引いた。
 その時笛の音が帰って来た。塀の口から白い蛇が、荒れ狂って飛び込んで来た。手近の武士へ飛びかかった。
「ワッ」
 と武士は悲鳴を上げた。ヨロヨロと塀へもたれかか[#「もたれかか」に傍点]った。白蛇も精力が尽きたと見え、体を延ばして動かなくなった。
 ガックリ武士は首を垂れた。前のめり[#「のめり」に傍点]に地に斃れた。
 町人と武士、そうして白蛇、三つの死骸を月が照らした。
 不意に女の笑い声がした。
「多四郎! 多四郎! 思い知ったか! 妾《わたし》の怨みだ! 妾の怨みだ!」
 葉之助は四辺を見廻した。女の姿は見えなかった。だが声は繰り返した。
「猪太郎! 猪太郎! よくおやりだ! お礼を云うよ、お母さんからね」
 声はそのまま止んでしまった。
 気が附いて葉之助は腕を捲く
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