た。一人は大小を差していた。しかし一人は丸腰であった。
断片的に話し声が聞こえた。
「……恐らく今夜は邪魔はあるまい」
武士の方がこう云った。
「……今夜は大丈夫でございましょう」
町人の方がこう答えた。
「……ではソロソロ放そうか」
「それがよろしゅうございましょう」
「……薬は確かに撒いたろうな」
「その辺如才はありません」
ここでしばらく話が絶えた。
町人が棒を取り上げた。側に置いてあった棒であった。どうやら太い竹筒らしい。
武士は二、三歩後へ退がった。町人は注意深く及び腰をした。
町人はソロソロと手を延ばし、竹筒の先の臍《ほぞ》を取った。素早く竹筒を地上へ置いた。そうしてサッと後へ退がった。
二人の前から白粉が、一筋塀裾へ引かれていた。塀の一所に穴があった。穴を通って白粉が、戸外《そと》の方まで引かれていた。
と、微妙な音がした。口笛でも吹くような音であった。竹筒の中からスルスルと、一筋の白い紐が出た。白粉の上を一散に、塀の外へ走り出した。
「あっ」
と葉之助は声を上げた。植え込みから飛び出した。そうして町人へ組み付いた。
二八
「あっ
前へ
次へ
全368ページ中352ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング