へ追いつこうとした。
 にわかに彼らが立ち止まった。
 彼らの顔は笑っていた。走って来る葉之助を凝視した。悪意を持った嘲笑であった。
 つと[#「つと」に傍点]一人が前へ進み、廊下の壁へ手を触れた。とたんに廊下の板敷が外れ、葉之助は床下へ落ち込んだ。
 彼らはドッと笑声を上げ、そのままドンドン走って行った。
 と、数匹の狼が、ヒュウヒュウと床下へ飛び込んだ。間もなく次々に飛び出して来た。巨大な一匹の狼の背に、葉之助はしがみついていた。彼は左の手を挫《くじ》いていた。動かすことが出来なかった。劇《はげ》しい痛みに堪えられなかった。で、彼は転げ廻った。土佐犬が悲しそうに吠え立てた。
 しかし狼は吠えなかった。葉之助の周囲へ集まって来た。挫いた左の腕の附け根を暖かい舌で嘗め廻した。
 獣には獣の治療法があった。彼ら特色の治療法であった。彼らの唾液《だえき》は薬であった。暖かい舌で嘗め廻すことは、温湿布に当たっていた。鏡葉之助の体には、窩人の血汐が混っていた。
 窩人と獣とは友達であった。
 獣特色の治療法は、一面窩人の治療法でもあった。
 葉之助の痛みは瞬間に止んだ。腕の運動も自由になった。
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