らの詮索《せんさく》をする。
「ええ心やすい人ですもの。岩さんという方ですわ」
 彼女は無邪気《むじゃき》に云うのであった。
「妾《わたし》の従姉兄《いとこ》に当たりますの」
「それじゃ部落の人ですね」さも嘲《あざ》けった様子をして、
「へ、熊猪《くまじし》のお仲間か! ところで先日の話の続きを今日はお話ししましょうかな」
「どうぞ」
 と山吹は乗り出して来たがもうその眼は恍惚《うっと》りとなり胸をワクワクさせているらしい。
「それジワジワとおいでなすったぞ。この大江戸の話ばかりが資金《もとで》いらずの資金というものさ。田舎《いなか》の女を誑《たら》すにはこれに上越《うえこ》すものはないて」
 ――多四郎はこんなことを思いながら上唇をペロリとなめ、
「……何が美しいと云ったところで江戸の祭礼《まつり》に敵《かな》うものはまず他にはありませんな。揃いの衣裳。山車《だし》屋台。芸妓《げいしゃ》の手古舞《てこま》い。笛太鼓。ワイショワイショワイショワイショと樽《たる》天神を担《かつ》ぎ廻ります。それはたいした[#「たいした」に傍点]景気でさあね。……大名行列もふんだん[#「ふんだん」に傍点]
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