でいるように見えますこと」
 柵《しがらみ》は几帳《きちょう》を押しやってふと[#「ふと」に傍点]立ち上がる気勢を見せたが、
「ほんとにお前の云う通りその画像のお二人は不思議なお顔をしているのねえ」
「お姉様」と云いながら久田姫はつと[#「つと」に傍点]近寄り柵の膝《ひざ》へ手を置いたが、「この画像のお二人のうちどちらか一人|妾《わたし》のお父様に似ておいでになるのではございますまいか?」
「それこそ妄想というものですよ」柵はこうは云ったものの、その声は際立って顫《ふる》えている。
「お前はいつぞや[#「いつぞや」に傍点]も画像を見て同じような事を云ったのねえ。……ああお前のその妄想がどんなに妾を苦しめるでしょう……いいえお前のお父様はどちらにも似てはおいでなさらないのですよ」妹の顔をつくづく見守り重い溜息《ためいき》をそっと吐いたが、「……お前がこの世に産まれた時――もう十四年の昔になる――お前のお父様とお母様とはこのお城からお出ましになり諏訪《すわ》の湖水の波を分け行衛《ゆくえ》知れずにおなりなされたのだよ」
「いいえ妾には信じられませぬ」久田姫は遮《さえぎ》った。「信じられないの
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