「では二匹盗まれたんだな」
 もう一人の声がこう云った。「毒蛇だのに、誰が盗んだかな」
「八ヶ嶽だけに住んでる蛇だ」
「毒蛇だのに、誰が盗んだかな」
「いずれ馬鹿者が盗んだんだろう」
 ここで再び笑い声がした。
 それが消えると静かになった。カラカラと駒下駄の音がした。横に曲がってやがて消えた。
 また微風が訪れて来た。
 興行物の小屋掛けが、闇の中に立っていた。ギャーッと夜烏《よがらす》が啼き過ぎた。
「冬になるまでには帰りたいものだ」
 老人の声がこう云った。
「帰れるともきっと帰れる」もう一人の老人の声が云った。
「そう長く悪運が続くわけがない」
「多四郎め! 思い知るがいい!」
「だが葉之助は可哀そうだ」突然誰かがこう云った。
「仕方がない、贖罪《しょくざい》だ!」もう一人の声がこう云った。
「母の罪を償うのだ」
「あれ[#「あれ」に傍点]の母の山吹は、部落きっての美人だった。お頭杉右衛門の娘だった。若大将岩太郎の許婚《いいなずけ》だった。……ほんとに気前のいい娘だった」
「ところが多四郎めに瞞《だま》された。そうして怨《うら》み死にに死んでしまった。可哀そうな可哀そうな女だっ
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