素晴らしく洒落《しゃれ》込んだ多四郎さんがね、こっちへ上って来るじゃないか。で俺《おい》ら急いで走って行って色々あの人と話したがね……」
「まあそれじゃ本当なんだね」
山吹は思わず手を上げて髪の乱れを掻き上げた。
牛丸はそれを見るとニヤニヤして、
「ふうんこいつア妙だなあ、多四郎さんのこととなると姉さん変にソワソワするんだもの」
「そんな事云うもんじゃありませんよ。お前さんはまだ子供じゃないの。……それで多四郎さんは何んと云って?」
「ああ尋《たず》ねたよ姉さんの事を。『あなたの姉さんお幾歳《いくつ》?』てね。厭《いや》に気取った云い方でね」
「そうしてお前さんは何んて答えて?」心配そうに訊くのであった。
牛丸はまたもニヤニヤしながら、「二十二だって云ってやったよ。つまり三つ懸け値をしてね」
「まあ」と呆《あき》れて山吹は思わず両手を打ち合わせたが、
「どうしようどうしよう悪戯《いたずら》っ子《こ》! 妾あの方に自分の年を十八だって云って置いたのよ!」
二人の姉弟《きょうだい》は腹を抱え面白そうに笑ったが、その心地よい笑い声は森や林へ反響し二人の耳へ返って来た。
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