来た。やがてスーッと幕が引かれ、舞台が一杯に現われたが、見れば舞台の真ん中に大きな鉄の檻《おり》があり、その中に巨大な熊がいた。
「ウワーッ、荒熊だ荒熊だ!」「熊と相撲を取るんだな」「見遁《みの》がせねえぞ見遁がせねえぞ!」見物は一度に喝采した。
と異様な風采をした一人の老人が現われた。
「あれいけねえ、お爺《とっ》つぁんだぜ」「いえ、あんな年寄りが、熊と相撲を取るのかね」「やめなよ爺つぁんあぶねえあぶねえ!」
などとまたもや見物は、大声をあげて喚き出した。
一三
しかし老人はビクともせず、悠然《ゆうぜん》と正面へ突っ立ったが、猪《しし》の皮の袖無しに、葛《くず》織りの山袴、一尺ばかりの脇差しを帯び、革足袋《かわたび》を穿《は》いた有様は、粗野ではあるが威厳あり、侮《あなど》り難く思われた。
で見物は次第に静まり、小屋の中は森然《しん》となった。
「ええ、ご見物の皆様方へ、熊相撲の始まる前に、お話ししたいことがございます」
不意の、錆《さび》のある大きな声で、こうその老人が云い出した時には、見物はちょっとびっくりした。
「他のことではございません」老人は
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