呼び迎え説法を聞く者があるということじゃ。これは我々の宗教《おしえ》から見て許し難い罪悪じゃ! 見出《みいだ》してこの山から追い出さねばならぬ。何んとそうではあるまいかな?」
「そうだそうだ!」
と叫ぶ声が集まった窩人の口々から雷のように轟《とどろ》いた。
「さて」と一段声を高め杉右衛門はさらに云い出そうとしたが、にわかに棒のように立ちすくみ山の峰の方を見詰め出した。群がった窩人達は怪しみながら彼の眼を追って峰の方を見た。と同音に「わっ!」と叫び大事な評定《ひょうじょう》も忘れたかのように四方に向かって逃げ出した。
峰は今や山火事なのである。
涸《か》れ乾いた木の葉に火が点《つ》いたのである。濛々《もうもう》たる黒煙のその中から焔《ほのお》の舌が閃《ひらめ》いて見え嵐に煽《あお》られて次第次第に火勢は麓《ふもと》の方へ流れて来る。
窩人の部落は今やまさに焼き払われようとしているのである。
六
窩人の頭領杉右衛門の娘の今年十九の山吹《やまぶき》は家の一間で泣いていた。
父は寄り合いに出かけて行き弟の牛丸もどこへ行ったものか家の内にはいなかった。
彼女は
前へ
次へ
全368ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング