魔神宗介様は多数の眷族《けんぞく》を従えられ、いよいよ益※[#二の字点、1−2−22]《ますます》人間に向かって惨害をお下しなされるうち、世はやや治《おさ》まって信長《のぶなが》時代となりさらに豊臣《とよとみ》時代となりとうとう徳川時代となった。宗介様の肉体はとうにこの世を辞したけれど、魂|尚《なお》神となってこの谿谷《たに》に残っておられる筈だ。そうして我々眷族の子孫は窩に住むため窩人《かじん》と呼ばれ人界の者どもに恐れられ、今日までここに住んで来た。ところが……」
と窩人の長《おさ》の、杉右衛門は屹《きっ》と眼を瞋《いか》らせ、彼の前にずらりと並んでいる五百に余る窩人の群を隅から隅まで睨み廻したが、
「ところがこの頃どこから来たものか白法師と自分から名を宣《なの》る奇怪な法師がこの山へ来て、『敵を愛せよ』というようなことを熱心に説法し出した。そうだ、これとて不届き千万ではあるが、それにも増して許し難いのは窩人の身分でありながら、その白法師めの説法を窃《ひそ》かに信じる者があり、宗介天狗を勧請《かんじょう》した天狗の宮の境内《けいだい》で毎夜毎夜|集会《つどい》をなし、その白法師を
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