のれ、葉之助! さては汝《なんじ》が!」
「ご免!」
と叫ぶと覆面の武士すなわち葉之助は踵を返し、脱兎《だっと》のように逃げ出した。とたんに「かっ」という気合が掛かり、傘の武士の右手から雪礫《ゆきつぶて》が繰り出された。
手練の投げた雪礫は砲弾ほどの威力があり、それを背に受けた葉之助はもんどりうって倒れたが、そこは必死の場合である。パッと飛び起きて走り去った。あまりに意外な事実に、呆然とした弓之進はただ、棒のように立っていた。その時彼を呼ぶ者がある。
「鏡氏、お察し申す」
弓之進は眼を上げた。傘の武士が立っていた。
「そういう貴殿は? ……おお松崎氏!」
「捕えて見れば我が子なり。……鏡氏、驚かれたであろうな?」
「葉之助めが曲者《くせもの》とは。……ああ何事も夢でござる」
弓之進は※[#「さんずい+玄」、第3水準1−86−62]然《げんぜん》と泣いた。
「拙者断じて他言致さぬ。家に帰られ葉之助殿を、何んとかご処分なさるがよかろう」
雪は次第に烈《はげ》しくなった。弓之進は返辞さえしない。
返辞をしようと思っても口に出すことが出来ないのであった。
彼は内藤家の家老であった
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