間先さえ見え分かぬ。しかし人々よ気を付けなければならない! その朦朧たる霧の中を雪の白無垢《しろむく》を纏《まと》ったところの殺人鬼が通って行くのだから。
いやいや決して嘘ではない! 信じられない人間は、翌朝早く家を出て、城下を通って見るがよい。あっちの辻、こっちの往来、向こうの門前、こっちの川岸に袈裟に斬られた男女の死骸が、転がっているのを見ることが出来よう。殺人鬼の通った証拠である。
「どうも今度の曲者ばかりは、葉之助の手にも合わないらしい」
父、弓之進は呟いた。「ひとつ助太刀をしてやるかな」
事情を知らない弓之進がこう思うのはもっともである。
しかしそれだけは止めた方がいい。毛を吹いて傷を求める悲惨な羽目に堕ちるばかりだから!
「もう捨てては置かれない」
こう呟いた人があった。「やむを得ずば俺が出よう」
それは松崎清左衛門であった。
当時天下の大剣豪、立身出世に意がないばかりに、狭い高遠の城下などに跼蹐《きょくせき》してはいるけれど、江戸へ出ても三番とは下がらぬ、東軍流の名人である。――いかさまこの人が乗り出したなら、殺人鬼といえども身動き出来まい。
しかしは
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