ちへ近寄って来た。見るとそれは黒法師であった。それと知った葉之助は思案せざるを得なかった。
「幻覚かな? 本物かな?」
その間もズンズン黒法師は彼の方へ近寄って来た。やがてまさに擦れ違おうとした。
その時例の声が聞こえて来た。
「永久安穏はあるまいぞよ」
ゾッと葉之助は悪寒を感じ、それと同時に心の中へ不安の念がムラムラと湧いた。
で、刀を引き抜いた。そうして袈裟掛けに斬り伏せた。
陽がカンカン当たっていた。その秋の陽に晒《さ》らされているのは若い女の死骸であった。
「うむ、やっぱり幻覚であったか」
憮然《ぶぜん》として葉之助は呟いたもののしかし後悔はしなかった。気が晴々しくなったからである。
三人目には飛脚《ひきゃく》を斬り四人目には老婆を斬り五人目には武士を斬った。しかも家中の武士であった。
高遠城下は沸き立った。恐怖時代が出現し、人々はすっかり胆を冷やした。
「いったい何者の所業《しわざ》であろう?」
誰も知ることが出来なかった。
家中の武士が隊を組み、夜な夜な城下を見廻ろうという。そういう相談が一決したのは、それから一月の後であった。
で、その夜も夜警隊は
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