ね」
「本当ですか? どうしたのでしょう」
 で、葉之助は鏡を見た。なるほど、いささか異っている。白い顔色が益※[#二の字点、1−2−22]白く、黒い瞳がいよいよ黒く、赤い唇が一層赤く、いつもの彼よりより[#「より」に傍点]一層美しくもあれば気高くもある、一個|窈窕《ようちょう》たる美少年が、鏡の奥に写っていた。
 思わず葉之助は唸ったものである。それから呟いたものである。
「不思議だ、不思議だ、何んということだ」
 ……が、決して不思議ではない。何んのこれが不思議なものか。
 美しい犬へ肉をくれると、より一層美しくなる。死骸から咲き出た草花は、他の草花より美しい。
 人を殺して血を浴びた彼が、美しくなったのは当然である。

         四

 二度目に人を斬ったのは、陽の当たっている白昼《まひる》であった。
 その日彼は山手の方へ的《あて》もなくブラブラ歩いて行った。茂みで鳥が啼いていた。野茨《のいばら》の赤い実が珠をつづり草の間では虫が鳴《すだ》いていた。ひどく気持ちのよい日和《ひより》であった。
 と行手の峠道へポツリ人影が現われたが、長い芒《すすき》の穂をわけて次第にこっ
前へ 次へ
全368ページ中214ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング