ムラムラと殺気が萌《きざ》して来た。で彼は足音を盗み、そっと入道へ近寄った。
 声も掛けず抜き打ちに背後からザックリ斬り付けたのはその次の瞬間のことであった。と、ワッという悲鳴が起こり、静かな夜気を顫わせたが、見れば地上に一人の老人が、左の肩から右の胴まで物の見事に割り付けられ、朱《あけ》に染まって斃《たお》れていた。
「や、これは黒法師ではない。これは城下の町人だ」
 葉之助はハッと仰天《ぎょうてん》したが、今となってはどうすることも出来ない。
 しかるにここに奇怪な事が彼の心中に湧き起こった。……老人を斬った瞬間に、彼の心中にトグロを巻いていた不安と焦燥が消えたことである。……彼の頭は玲瓏《れいろう》と澄み、形容に絶した快感がそれと同時に油然と湧いた。
 飼い慣らされた猛獣が、血の味を知ったら大変である。原始的性格の葉之助が殺人《ひとごろし》の味を知ったことは、それより一層危険な事である。
 のみならずここにもう一つ奇怪な現象が行われた。
 それは彼が殺人をしたその翌朝のことであったが、床から起き出た彼を見ると、母親のお石が叫ぶように云った。
「お前、いつもと顔が異《ちが》う
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