《そむ》け合った。しかし体はその反対に相手の方へ寄って行った。胸が恐ろしく波立って来た。そうして手先が幽《かす》かに顫え、燃えるように身内が熱くなった。

         二

 やっぱり二人は黙っていた。
 もし迂濶《うかつ》に物でも云って、そのため楽しいこの瞬間が永遠に飛び去ってしまったなら、どんなに飽気《あっけ》ないことだろうと、こう思ってでもいるかのように、二人はいつまでも黙っていた。
 若さと美貌と勇気と名声、これを一身に兼備している葉之助のような人物こそは、お露のような乙女にとっては、無二の恋の対象であった。ましてその人は家のためまた大事な父のためには疎《おろそ》かならぬ恩人である。――で、一眼見たその時から、お露は葉之助に捉《とら》えられた。時が経つにしたがってその恋心は募って行った。葉之助を家へ招くように父に勧めたというのも、この恋心のさせた業であった。
 今こそ心中を打ち明けるにはまたとない絶好の機会である。場所は庭の中の亭《ちん》である。すぐ側に恋人が坐っている。美しい夕月の宵《よい》である。二人の他には誰もいない。……しかし、彼女は処女であった。そうして性質は穏
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