《おとな》しかった。無邪気に清潔《きよらか》に育てられて来た。どうして直接《うちつけ》に思う事を思う男へ打ち明けられよう。
 葉之助にとってはこれまでは、このお露という美しい娘は淡い恋の対象に過ぎなかった。ただ時々思い出し、思い出してはすぐ忘れた。しかるにこの日招かれて来て、そうして彼女に会って見て、そうして彼女から卒直《いっぽんぎ》の恋の素振《そぶ》りを見せられて、始めて彼は身を焼くような恋の思いに捉えられた。彼は彼女に唆《そそ》られたのである。恋の窓を開かれたのである。
 彼のような性質の者が、一旦恋心を唆られると坂を転がる石のように止どまるところを知らないものである。……欝勃《うつぼつ》たる覇気、一味の野性、休火山のような抑えられた情火、これが彼の本態であった。しかし彼は童貞であった。どうして直接《うちつけ》に思うことを思う女へ打ち明けられよう。
 で、二人は黙っていた。しかし二人は二人とも、相手の心は解っていた。不満ながらも満足をして二人は黙っているのであった。

「これ葉之助、ちょっと参れ」
 ある日父の弓之進が、こう葉之助を部屋へ呼んだ。
「は、ご用でございますか?」
「お
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