晴らしいような逸品《いっぴん》があったが、惜し気なく取り出して見せてくれた。これも彼には嬉しかった。
 お露とたった二人だけで、数奇を凝らした茶室の中で、彼女の手前で茶をよばれたのは、分けても彼には好もしかった。
 石州流の作法によって造り上げられた庭園を、お露の案内で彷徨《さまよ》った時、夕月が梢《こずえ》に差し上った。
「綺麗なお月様……」
「おお名月……」
 二人は亭《ちん》に腰掛けた。
 葉籠りをした小鳥の群が、にわかに騒がしく啼き出した。あまりに明るい月光に、朝が来たと思ったのであろう。
 いつか二人は寄り添っていた。互いの体の温《ぬくも》りが、互いの体へ通って行く。二人の心は恍惚となった。
 ふとお露は溜息をした。
 と、葉之助も溜息をした。
 ピチッと泉水で魚が跳ねた。
 後はひっそり[#「ひっそり」に傍点]と静かである。
 互いに何か話そうとして、なんにも話すことが出来なかった。話そうと思えば思うほど口が固く結ばれた。
 で二人は黙っていた。二人とも若くて美しい。二人とも恋には経験がない。これが二人には初恋であった。
 二人は漸次《だんだん》恥ずかしくなった。で顔を反向
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