《いぶ》かる家人を尻目に掛け、葉之助は宿を出た。
 湖水に添って田圃路《たんぼみち》を神宮寺村の方へ歩いて行く。
 間もなく水狐族の部落へ来たが、以前《このまえ》来た時と変わりなく家々は森然《しん》と寝静まり、犬の声さえ聞こえない。
「よし」
 と呟くと葉之助は、木蔭家蔭を伝いながら、久田の姥の住居の方へ、足音を忍んで寄って行った。
 広い前庭までやって来た時彼はハッとして立ち止まった。
 幽《かす》かな空の星の光にぼんやり姿を照らしながら四、五人の人影が蠢《うごめ》いている。コンコンという釘《くぎ》を打つ音、シュッシュッという板を削《けず》る音、いろいろの音が聞こえて来る。何やら造っているようである。
「はてな?」
 と葉之助は怪しんだ。で、一層足音を忍ばせ、暗い物蔭を伝い伝い、彼らの話し声を聞き取ろうと、そっちの方へ寄って行った。
 何やら彼らは話し合っている。
「どうしたどうした、まだ出来ないか」
「節があるので削り悪《にく》い」
「いいかげんでいい、いいかげんでいい」
 シュッシュッという板を削る音。
「釘をよこせ、釘をよこせ」
「おっとよしきた、それ釘だ」
 コンコンという釘
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