とスーッと屋内へ辷《すべ》り込んだ。
 後は森然《しん》と静かである。音楽の音も聞こえない。
 木蔭で見ていた葉之助は何がなしにゾッとした。
「……水狐族の妖術だな。あの老婆が長《おさ》なのであろう。人を音楽で引き寄せる。不思議なことがあればあるものだ。……家の中で何をしているのだろう?」
 強い好奇心に誘われて静かに葉之助は木蔭を立ち出で、階段へ足をそっと掛け一階二階と昇って見た。とたんにヒューと空を切って一本の投げ棒が飛んで来たが、葉之助の足を払おうとする。ハッと驚いた葉之助は、身を躍らせて階段からヒラリと地上へ飛び下りた。しかしどこにも人影はない。月の光が蒼茫と前庭一杯に射し込んでいた。木立や家影《いえかげ》を黒々と地に印《しる》しているばかりである。
 葉之助はまたもゾッとした。「帰った方がよさそうだ」こう思わざるを得なかった。そこで彼は身を忍ばせ水狐部落を抜け出し、野良の細道をスタスタと湖水の岸まで引き返して来た。
 一人の女が湖水の岸の柳の蔭に立っている。どうやら泣いているらしい。
「これ女中どうなされたな?」
 葉之助は怪しんで近寄って行った。見れば美しい娘である。
「こ
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