れはしまった[#「しまった」に傍点]」と呟いた時、一人の老婆が向こうから来た。何やら思案をしていると見えて、首を深く垂れている。
「ご老婆ちょっと物を尋ねる」
運八は切急《せっきゅう》に声を掛けた。「立派な若いお侍がたった[#「たった」に傍点]今この道を行った筈。そなた見掛けはしなかったかな?」
二一
老婆は返辞をしなかった。何やら音を立てて食っている。そうしてクスクス笑っているらしい。
「年寄りの分際《ぶんざい》で無礼な奴! これ返辞を何故しない」
右田運八は怒鳴りながら老婆の肩をムズと掴んだ。しかし老婆は返辞をしない。やはり俯向《うつむ》いて笑っている。そうして何か食っている。クックッと云うのは笑い声であり、ビチャビチャと云うのは物を食う音だ。
運八はいよいよ激昂《げっこう》し肩へ掛けた手へ力を入れた。と、その手がにわかに痲痺《しび》れ不意に老婆が顔を上げた。白金のような白髪を冠った朱盆のような赭《あか》い顔が暗夜の中に浮いて見えたが、口にも鼻にも頬顎にもベッタリ生血が附いている。両手でしっかり抱えているのは半分食いかけた生首である。切り口から血汐が滴
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