《したた》っている。それは灘兵衛の首であった。
はっ[#「はっ」に傍点]と思ったその瞬間運八はグラグラと眼が眩《まわ》った。それから彼はバッタリ倒れ、そのまま気絶をしたのである。
数人の百姓に介抱《かいほう》され、彼が気絶から甦生《よみがえ》った時には、その翌日の朝の陽が高く空に昇っていた。
この運八の失策は忽《たちま》ち城下の評判となり武士と云わず町人と云わずすっかり怖気《おぞけ》を揮《ふる》ってしまい、日の暮れるのを合図にして人々は戸外へ出ようともしない。頓《とみ》に城下は寂《さび》れ返り諏訪家の武威さえ疑われるようになった。
しかるに若殿頼正は依然として城を抜け出してどこへともなく通って行く。そうして日に夜に衰弱する。祟《たた》り! 祟り! 水狐族の祟り! いったいどうしたらよいのであろう!
この奇怪な諏訪家の噂は、伊那の内藤家へも聞こえて来た。
ある日、駿河守正勝は鏡葉之助をお側へ召したが、
「気の毒ながら諏訪家へ参り、妖怪《あやかし》見現わしてはくれまいかな」さも余儀なげに頼んだものである。
「は」と云ったが葉之助は迷惑そうな顔をした。
「諏訪家と当家とは縁辺で
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