の夜、手慣れた槍を小脇に抱え、城の奥殿若殿のお部屋の、庭園の中へ忍び込み、様子いかにと窺った。
深夜の風が植え込みに当たり、ザワザワザワザワと音を立て、曇った空には星影もなく、城内の人々寝静まったと見え森閑として物凄い。その時雨戸が音もなく開き人影がひらり[#「ひらり」に傍点]と下り立った。他ならぬ若殿頼正である。
眼に見えぬ糸に曳かれるように、傍目《わきめ》もふらず頼正は、スーッ、スーッと歩いて行く。
すると裏門の潜《くぐ》り戸が、これも人あって開けるかのように、音も立てずスーッと開いた。それを抜けて城外へ出る。犬を吠えず鶏も啼かぬ寥々寂々《りょうりょうせきせき》たる屋敷町を流星のように走り過ぎる。向かう行手は神宮寺であろう。その方角へ走って行く。
「さてこそ」と運八は思いながら、二間あまりの間隔を取りこれも負けずに直走《ひたはし》る。
町を抜けると野良《のら》である。野良の細道を二個の人影が、足音も立てずに走って行く。間もなくこんもり[#「こんもり」に傍点]とした森へ出た。頼正は森の中へ走り込む。で、運八も走り込み、やがてその森を抜けた時には、頼正の姿は見えなかった。
「こ
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