ないものでもなし、それより綺麗《きれい》なこの湖水へいっそ身を投げ死んだなら、黄泉《あのよ》の実の母様にお目にかかることも出来ようかと……」
「それでここで泣いていたのか?」
「はい」と云って身を顫わせる。
月は益※[#二の字点、1−2−22]|冴《さ》え返って乙女の全身は透通《すきとお》るかとばかり、蒼白い光に煙《けぶ》っている。その肩の辺に縺《もつ》れかかった崩れた髪の乱らがましさ、顔を隠した袖を抜けてクッキリと白い富士額《ふじびたい》、腰細く丈《たけ》高く、艶《えん》と凄《せい》とを備えた風情《ふぜい》には、人を悩ますものがある。二十一歳の今日まで無数の美女に侍《かしず》かれながら、人を恋したことのない武道好みの頼正も、この時はじめて胸苦しい血の湧く思いをしたのである。
「そうしてそちの名は何んと云うぞ?」
「はい、水藻《みずも》と申します」
「水藻、水藻、しおらしい名だ。これからそちはどうする気だな?」
「はい、どうしたらよろしいやら、いっそやっぱり湖水の底へ……どうぞ死なしてくださりませ! どうぞ死なしてくださりませ!」物狂わしく身をもがく。
「この頼正がある限りは決してそ
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