んしょう》の姿を美しく見せる。
湖水を背にしてスラリと立ち、顔を両袖に埋めながらすすりなきする乙女の姿は、今、月光に化粧されていよいよ益※[#二の字点、1−2−22]美しく見える。諏訪家の若殿頼正にはそれがあたかも天上から来た霊的の物のように見えるのであった。
「このような深夜にこのような処で若い女子《おんな》がただ一人何が悲しくて泣いておるぞ」
こう云いながら頼正は乙女の側へ寄って行った。
「私《わし》は怪しい者ではない。相等《そうとう》の官位のある者だ。心配するには及ばない。私に事情を話すがよい。そなたはどこから参ったな?」
すると乙女は泣く音《ね》を止め、わずかに袖から顔を上げたが、
「京都《みやこ》の産まれでございます」
「ナニ京都《みやこ》? おおさようか。京都は帝京《ていきょう》、天子|在《いま》す処、この信濃からは遠く離れておる。しかしよもやただ一人で京都から参ったのではあるまいな」
「京都から参ったのでございます」
「うむ、そうしてただ一人でか?」
「誘拐《かどわか》されたのでございます」
「誘拐された? それは気の毒。で、何者に誘拐されたな?」
「ハイ、今から二
前へ
次へ
全368ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング