ぞ!」武右衛門は喘《あえ》ぎ喘ぎ云うのであった。「巫女姿の一人の老婆……」
「巫女姿の一人の老婆?」頼正は思わず鸚鵡《おうむ》返す。
「苔蒸《こけむ》した石棺に腰をかけ」
「苔蒸した石棺に腰をかけ?」
「口に灘兵衛の生首をくわえ……」
「ううむ、灘兵衛の生首をくわえ?」
「私を見ると笑いましてござる。あ、あ、あ、笑いましてござる。……あ、あ、あ」
と云ったかと思うとそのままグッタリ首を垂れた。武右衛門は気絶をしたのである。
船中一時に寂然《しん》となる。声を出そうとする者もない。湖底! 湖底! 湖水の底! 生首をくわえた水狐族の巫女が、苔蒸した石棺に腰かけている! ああこの恐ろしい光景が、自分達の乗っている船の真下に、まざまざ存在していようとは。
息苦しい瞬間の沈黙を、頼正の声がぶち[#「ぶち」に傍点]破った。
「帰館帰館! 船を返せ!」
ギー、ギー、ギー、ギー、二十隻の船から艪《ろ》の音が物狂わしく軋《きし》り出す。
今はほとんど順序もない、若殿のご座船を中に包み、後の船が先になり、先の船が後になり、高島城の水門を差し右往、左往に漕いで行く。
石棺引き上げの第一日目はこう
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