「いよいよ武右衛門湖水へ入る気か」
「殿、二言はござりませぬ」
「勇ましく思うぞ。きっと仕れ」
「は」
 と云うと衣裳を脱ぎ、下帯へ短刀を手挟《たばさ》むと、屹《きっ》と水面を睨み詰めた。両手を頭上へ上げると見る間に、辷《すべ》るがように飛び込んだ。水の音、水煙り、姿は底へ沈んで行く。
 頼正を始め家臣一同、歯を喰いしばり眦《まなじり》を裂き、じっと水面に見入ったがしばらくは何んの変ったこともない。
 と、忽然《こつぜん》と浮き上がって来たのは、南無三宝! 血汐であった。
「あっ、武右衛門もやられたわ!」
 頼正、躍り上がつて叫んだ時、水、ゴボゴボと湧き上がり、その割れ目から顔を出したのは、血にまみれた武右衛門である。
「それ、者ども、武右衛門を助けい!」
「あっ」と云うと二、三人、衣裳のまま飛び込んだが忽《たちま》ち武右衛門を担《かつ》ぎ上げる。
「腕! 腕!」と誰かが叫んだ。無残! 武右衛門の右の腕が肩の付け根から喰い取られている。
「負傷《ておい》と見ゆるぞ、介抱《かいほう》致せ! ……武右衛門! 武右衛門! 傷は浅い! しっかり致せ! しっかり致せ!」
「殿、湖底は地獄でござる
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