れは成らぬ」と頼正は気の毒そうに頭を振った。
「そちは今回の企てを何んのためと思っておるな?」
「お好奇心《ものずき》の結果と存じまする」「それが第一の考え違いだ。決して好奇心の結果ではない。諏訪家の恥辱を雪《そそ》ぎたいためよ」「これはこれは不思議なご諚《じょう》、私胸に落ちませぬ」「胸に落ちずば云って聞かせる、武田の家宝と称されおる諏訪法性の冑《かぶと》なるもの元は諏訪家の宝であったが、信玄無道にしてそれを奪い、死後尚自分の死骸に着け、所もあろうに諏訪湖の底へ、石棺に封じて葬《ほうむ》るとは、あくまで諏訪家を恥ずかしめた振る舞い、これは怒るが当然だ! 我《われ》石棺を引き上げると云うも、法性の冑を奪い返し、家宝にしたいに他ならぬ。何んとこれでもこの企て、好奇心《ものずき》の結果と考えるかな」
「いや」と武右衛門は顔を上げた。
「さようなご深慮とも弁《わきま》えず、賢《さか》しらだって[#「しらだって」に傍点]諫言《かんげん》仕《つかまつ》り今さら恥ずかしく存じまする」
「解ってくれたか。それで安心」
「ご免」と云うと武右衛門はスックとばかり立ち上がった。クルクルと帯を解《と》く。
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