」「行かねばならぬ? それは何故か?」「他に行く者ござりませぬ」
「いかさま……」と云うと頼正は憤《いきどお》らし気に四方を見た。
「いえ、たとえ他にござりましても、この老人|遮《さえぎ》ってでもお役を勤めねばなりませぬ」
「はて、それはまた何故であろうな?」
「私、指南番にござります。剣道指南番にござります。しかるにこの頃私は老朽、役に立ちませぬ。それにも拘《かかわ》らず大殿様はじめ若殿様におかれましても、昔通りご重用《ちょうよう》くだされ、家中の者もこの老人を疎《おろそ》かに扱おうとは致しませぬ。これ皆君家のご恩であること申し上げるまでもござりませぬ。かかる場合にこそこの老人、ご恩をお返し致さねばいつ酬《むく》うこと出来ましょうや……さて」
 と武右衛門はこう云って来てにわかに一膝いざり[#「いざり」に傍点]出たが、「お願いの筋がござります」

         一八

「願いの筋とな? 申して見るがよいぞ」――頼正は優しく云ったものである。
「もしも私不幸にして、悪魚の餌食となりました際には、なにとぞ今回のお企て、すぐにお取り止めくださいますよう。これがお願いにござります」
「そ
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