紋兵衛は静かに顔を上げた。名は互いに知ってはいたが顔を合わせるのは今日が初めて、二人の顔がピッタリ合った。
 と、俄然紋兵衛の顔へ恐怖が颯《さっ》と浮かんだが、
「わッ、幽霊!」と喚《わめ》いたものである。
「これこれどうした? 幽霊とは何んだ?」
 驚いたのは葉之助で、紋兵衛の様子をじっ[#「じっ」に傍点]と眺める。
「堪忍《かんにん》してくれ! 堪忍してくれ! 俺が悪かった! 俺が悪かった! ……山吹! 山吹! 堪忍してくれ」
 蛇に魅入られた蛙《かえる》とでも云おうか、葉之助の顔から眼を放さず、紋兵衛は益※[#二の字点、1−2−22]喚くのであった、が額からタラタラ汗を流し、全身を劇《はげ》しく顫《ふる》わせているのは、恐怖の度合のいかに大きいかを無言のうちに説明している。
「これこれ紋兵衛殿どうしたものだ。拙者は鏡葉之助でござる。山吹などとは何事でござる。心を確《しっか》りお持ちなさるがよい」
 こう云いながら葉之助は、気の毒そうに苦笑したが、「ははあこれも妖怪《あやかし》の業《わざ》だな。さてどこから手を付けたものか?」
「何、鏡葉之助殿とな?」
 逆立った眼で葉之助を
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