《とも》された燭台の灯も薄茫然《うすぼんやり》と輪を描き、光の届かぬ隅々には眼も鼻もない妖怪《あやかし》が声を立てずに笑っていそうであり、人は沢山にいるらしいが暖かい人気《ひとけ》を感じない。
「妖怪邸《ばけものやしき》と云われるだけあって、不思議に寂しい邸ではある」
 こう心で呟いた時、お露がスーと襖を開けた。
「父の病室にござります」
「さようでござるか」とツトはいる。
 北山はじめ附き人達は遠慮して隣室へ退ったので部屋には紋兵衛一人しかいない。病人というので褥《しとね》は離れず、彼は恭《うやうや》しく端座《かしこ》まっていたが、それと見て畳へ手を支《つか》えた。
 殿の使いとは云うものの表立った使者ではなく、きわめて略式の訪問なのだ。
「いやそのまま」と云いながら葉之助は座を構え、「邸に妖怪《あやかし》憑《つ》いたる由、殿にも気の毒に覚し召さるる。拙者《せっしゃ》今日参ったはすなわち妖怪|見現《みあら》わしのため。殿のご厚意|疎略《そりゃく》に思ってはならぬ」
「何しに疎略に思いましょうぞ。ハイハイまことに有難いことで……あなた様にもご苦労千万、まずお休息《いこい》遊ばしますよう
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