っ」に傍点]と眼を据えて紋兵衛の顔を見守った。しかし紋兵衛はもの[#「もの」に傍点]を云わない。
「どうやらこれも云えないと見える……後ろ暗いことでもあるのであろう」
「黙れ!」
と突然狂気|染《じ》みた声で、大鳥井紋兵衛は怒鳴《どな》ったものである。彼はムックリと起き上がった。
「黙れ! 藪医者《やぶいしゃ》め! 何を吐《ぬ》かす!」
「何?」
と北山も眼を瞋《いか》らせた。
「俺は正直の人間だ!」紋兵衛は大声で怒鳴りつづける。「後ろ暗えこととは何事だ! 俺は正直に働いて正当に金を儲けたのだ! それが何んで悪いのか!」
「うんそうか、それが本当なら、貴公はなかなか働き者だ。この北山|褒《ほ》めてやる……さほど正直に儲けた金なら何も隠すには及ぶまい。何をして儲けたか云うがいい」
「いいや云わねえ、云う必要はねえ! 何んで貴様に云う必要がある! それから云え、それから云え!」
「云ってやろう、俺は医者だ!」
「医者だからどうしたと云うのだい!」
「病いの基《もと》を調べるのよ」
「病いの基を調べるって? いいやそんな必要はねえ」
「貴公、可哀そうに血迷っているな」
「血迷うものか!
前へ
次へ
全368ページ中137ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング