人物ではない。しかし礼を厚うしてほとんど十回も招かれて見れば放抛《うっちゃ》って置くことも出来なかったので時々見舞ってやっていた。しかしもちろん急抱えの剣術使いや浪人とは違う。否だと思えばサッサと帰り、いけないと思えば投薬もしない。
「北山先生薬くだされ!」
「ならぬ!」
 と北山は抑《おさ》え付けた。

         一二

「あなたの病気は薬でも癒《なお》らぬ。懺悔《ざんげ》なされ懺悔なされ。そうしたらすぐにも癒るであろう」
「懺悔?」と紋兵衛は恐ろしそうに、「何もございません、何もございません! 懺悔することなどはございません!」
「嘘《うそ》を云わっしゃい!」
 と北山は嘲《あざけ》るようにたしなめた。「懺悔することのないものが何んでそのように神経を起こし、何んでそのように恐れるか。……そなた、無分別の若い頃に悪いことでもしはしないかな?」
 膝《ひざ》に突いていた黒塗りの扇《おうぎ》をパチリパチリとやりながら、北山はグングン突っ込んで訊く。
「いいえ、そんな事はございません。正直な人間でございます。人に恨まれる覚えもなく、人に憎まれる覚えもない正直な人間でございます」

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