それは頼もしい」
「ご免くだされ」
と座を辷《すべ》る。
「大事をとって行くがいいぞ」
「お心添え忝《かたじ》けのう存じます」
国広の刀をひっさげて葉之助はご前を退出した。
富豪大鳥井紋兵衛の邸《やしき》は、二本|榎《えのき》と俗に呼ばれた、お城を離れる半里の地点、小原村に近い耕地の中に、一軒ポッツリ立っていたが、四方に林を取り巡らし、濠《ほり》に似せて溝を掘り、周囲を廻れば五町もあろうか、主屋《おもや》、離室《はなれ》、客殿、亭《ちん》、厩舎《うまや》、納屋《なや》から小作小屋まで一切を入れれば十棟余り、実に堂々たる構造《かまえ》であったが、その主屋の一室に主人紋兵衛は臥《ふ》せっていた。
「灯火《あかり》が暗い。もっと点《とも》せ」
夜具からヒョイと顔を出すと、譫語《うわごと》のように紋兵衛は云った。年は幾歳《いくつ》か不明であったが、頭髪白く顔には皺《しわ》があり、六十以上とも見られたが、どうやらそうまでは行っていないらしい。大きい眼に高い鼻、昔は美男であったらしい。
「灯火は十も点っております」
附き添っている十人の中には、剣客もあれば力士もあり柔術《やわら》に達し
前へ
次へ
全368ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング