なった。
「おお葉之助か近う参れ」
ある日、それは夕方であったが、駿河守はこう云って鏡葉之助を膝近く呼んだ。
「は」と云って辷《すべ》り寄る。「何かご用でござりますか?」
「そちに吩咐《いいつ》けることがある」
駿河守は真面目《まじめ》に云う。
「は、何ご用でござりましょう?」
「今宵《こよい》妖怪《あやかし》を退治て参れ」
「して、妖怪と仰せられますは?」さすがの葉之助も不安そうに訊き返さざるを得なかった。
「そちも噂は聞いていよう。永く当家の金《かね》ご用を勤めるあの大鳥井紋兵衛の邸《やしき》へ、最近|繁々《しげしげ》妖怪|出《い》で紋兵衛を悩ますということであるが、当家にとっては功労ある男、ただし少しく強慾に過ぎ不人情の仕打ちもあるとかで、諸人の評判はよくないが、打ち棄《す》てて置くも気の毒なもの、そち参って力になるよう」
「は」
とは云ったが葉之助は、躊躇《ためら》わざるを得なかった。
いかにも彼はその噂を世間の評判で知っていた。久しい前から紋兵衛の邸へ異形《いぎょう》の怪物が集まって来て、泣いたり嚇《おど》したり懇願《こんがん》したり、果ては呪詛《のろい》の言葉を吐い
前へ
次へ
全368ページ中130ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング