静かに開いて、茶を捧げたお石殿が部屋の中へはいって来た。
「徒然《つれづれ》と存じお茶を淹《い》れました」
「お母様」
 と葉之助は、甘えた声で呼んだかと思うと、足を投げ出し横になった。「お菓子くだされお菓子くだされ!」
 腕を延ばすと菓子鉢の菓子をやにわに摘んで頬張った。
「まあこの子は」
 とお石は驚き、「平素《いつも》に似ない行儀の悪さ、お前|白痴《ばか》におなりだね」
「アッハハハ、その呼吸《いき》呼吸《いき》!」
 弓之進は手を拍《う》った。
「これで我が家も葉之助もまずは安全というものじゃ。めでたいめでたい! アッハハハ」

         八

 内藤駿河守正勝は初老を過ごすこと五つであったが、性|濶達《かったつ》豪放で、しかも仁慈《じんじ》というのだから名君の部に属すべきお方、しかし、欠点は豪酒にあった。今日も酒々、明日も酒……こう云ったような有様である。
 ある日弓之進が伺候《しこう》すると、
「そちの養子葉之助、今年十二の弱年ながら珍らしい武道の達人の由、部屋住みのまま百石を取らせる、早々殿中へ差し出すよう、近習《きんじゅう》として召し使い遣《つか》わす」
「これ
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